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「毒矢の喩え」

「毒矢の喩え」


これは仏教の有名な言葉で、次のようなものだ。

--
弟子に、「なぜ世界はあるのでしょうか」「死後の世界はあるのでしょうか、ないのでしょうか」

などと尋ねられた釈迦が、

「毒を塗った矢を射られて身体に刺さったとする。そのときこの矢はどこから飛んできたのだろう、この毒の種類は何だろう、矢を射ったのは誰だろうか、などと考える前にまずやることがある。それはすぐに矢を抜くことだ。」

と答える、という話だ。

つまり、世界はなぜあるか、あの世があるかないか、霊があるかないかの問題を考えるよりも、目の前の問題である、この世の悩み苦しみを解決し、人の生きるべき道を明らかにすることが大事だ、という喩え話だ。
--

釈迦_s



この話を、インド音楽に当てはめるとどうなるだろうか。


「悠久のインド音楽」「神々のインド音楽」「神秘のインド音楽」と日本では紹介される事が多いインド音楽。
確かに、深い哲学はあるけど、それはそんなに簡単に言葉で言えるものではない。


例えば、悠久といっても、実際にシタールやタブラという楽器が生まれたのは、ほんの数百年前で、日本では江戸時代くらいだ。
もちろん現代でも楽器や演奏の試行錯誤は行われている。


20世紀にインドが独立した時、それまで宮廷の特権階級に保護されていたインド音楽は、特権階級の廃止に伴って急速に衰えた。そんな状況の中、社会の変化をいう目の前の問題を理解し、考え、行動したのが彼らだ。
いくつか具体的に名前を挙げると、ラヴィシャンカール、ヴィラヤットカーン、ハリプラサッドチョウラジア、シヴクマールシャルマ、アララカ、ザキールフセイン等々の現在巨匠とされている演奏家達だ。


それまでの時代、タブラなどのリズム奏者は単に伴奏だけをしていた。
ラヴィシャンカール(シタール)とアララカ(タブラ)は、メロディとリズムのアンサンブルによる音楽を生み出し、単にインド音楽に新しい可能性を生み出しただけではなく、メロディ奏者とリズム奏者の関係も封建的なものから対等な関係へと変化させた。

その関係性は、ハリプラサッド(バンスリ)、シヴクマールシャルマ(サントゥール)、ザキールフセイン(タブラ)とつながり、現代のインド音楽そのものと言える形にまで発展している。


彼らは時代の変化を見定め、何をすべきかを考え、行動したからこそ、インド音楽の衰退を止め、現在にいたる発展を成し遂げた。


実際、「悠久のインド音楽」「神々のインド音楽」「神秘のインド音楽」というキャッチコピーでは、その激動の時代のインド音楽の衰退は救えなかっただろう。






現在日本で、この毒矢(目の前の問題)とはなんだろう?



「悠久のインド音楽」「神々のインド音楽」「神秘のインド音楽」という言葉の中には、前述の巨匠達は含まれていないのかもしれない。
例えば、サントゥールという打弦楽器はインド音楽に必要なこぶしの表現に不向きだとして認められないとか、新しい音楽の解釈は習ったことと違うから間違いだとか、信じられない事に、、これら時代を切り拓き、インド音楽を衰退から救った巨匠の功績さえ批判されるのを聞くことがある。
それらの批判は、刺さった毒矢を見ながら全く見当はずれなことを議論していることに当たらないだろうか。
批判は自身を正当化するのに使えるかもしれないけど、肝心なことに目を向けなければ、そうこうしているうちに毒が回って自分自身が死んでしまう。




インド音楽は現在進行形の音楽だ。


そこから目を背けることは、刺さっている毒矢を抜かないに等しい。

時代を切り拓いた巨匠世代からの世代交代は、近年、そしてこれからの数年で、ますます進む。もっと言えば、それを進められなければインド音楽は停滞・衰退する。



今必要なのは、この時代、この瞬間、何を見て、何を聴いて、何をすべきか。


「毒矢の喩え」は、その事をも鋭く言い当ててると思う。




新しい年、時代は現在進行形で進んでいる。
しっかり切り拓いていきたいと思います。


本年もどうぞよろしくお願いいたします。



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