またタブラに出会えた実感「ふたたび」でも「たしかに」またタブラに出会えた実感がある。
先日のタブラ奏者・アルナングシュ・チョウドリィ氏来日。
それは、チョーさんの来日中、本腰を入れてレッスンをつけてもらったことによるもの。
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「Sashi、まず君は決定的に思い切った決断をしなくてはならないよ。」
「これは数回のレッスンでヒントをもらって直せるようなレベルの話ではない。
10年間染み付いた叩き方と練習法を変えていくためには、全く新しいフレッシュな意識で、全く新しいフレッシュな方法で徹底的に取り組まなくてはならない。」
「いま囚われている意識は、一度捨てる必要がある。
新しいトレーニングのための時間も最大限必要だし、真っさらな意識で私を信用してくれなくては出来ない。」
教えるに当たって、無垢な人間を教えるのと違い、癖のついた人間を教えるのは並大抵のことではない。
本気で取り組む覚悟があるのか?「今までの全てを捨てろという意味ではないけれど、全ては一旦脇に置いておく必要がある。
少なくとも1年から数年。今ままで習ったフレーズも何も。
高名な師匠を持つ事はいいことだし、それは父親を持つようなものだ。一生変わるものではない。
ただ、師匠のところへ学びに行き、そのフレーズを演奏するために必要な準備が最初の段階で抜け落ちてしまっている。原因は君自身にもあるだろうし色々あるだろう。
でも、そんなことはどうだっていい。
この先、現実的に師匠から学んでいくためにせよ、現実的に生きていくためにせよ、
何れにしても、もっと根本的なところで演奏に対する土台をしっかり固めないといけない。」
「師匠であれ、父親であれ、先生であれ、誰も現実的に生き残っていく方法を教えてくれるわけではない。
私も、父親には音楽を仕事にすることに猛反対されたし、師匠にもコルカタからデリーへ行くことには反対されしばらく許してもらえなかった。
現実的にどうやっていくかは自分が決めることだ。
現実的に必要なトレーニングも自分自身でやっていくしかないんだ。」
「とにかく今やっているフレーズや練習は一度脇へ置いて、もっともっと基本的なところを明確に徹底的に時間をかけてやっていく必要がある。」
最初のレッスンで、現実的に本気でタブラを続けていくためには、どう取り組む必要があるのかを諭された。
君の選択だ「私はグル(師匠)になりたいと思ったことはない。
それは私の仕事ではない。私の仕事は演奏家だ。
ステージで演奏することでその喜びを皆と分かち合うことが仕事だし、それがただ好きなだけだ。
音楽を愛しているし、音楽を愛する人を愛している。
だからSashi、君の置かれた状況は想像できるし理解出来る。
そして手を差し延べることもできる。」
「何が君の問題なのかは見えるし、それで苦しんでいるのも分かる。
私にはそれを取り除くことができるし、その自信もある。
それはスポーツのトレーナーやコーチのするように、現実的なプロセスのものだ。
私のスタイルは言ってみれば「コーチ」だ」
「これはジョークなんかじゃない。
観光でいいのなら別だけど、インドに10年も通ってどれだけの時間とお金を投資してきたのか、私だってジョークでレッスンなんか出来ないよ。」
「音楽には何ひとつ間違いなんかない。
どんなレベルであれ、それで自分がハッピーならそれでいいんだ。今のやり方でハッピーならそれでいい。
でもそうでないのなら、問題を解決する方法はあるし、していく必要がある。
ひとつひとつ積み上げいくんだ。
ただし、じっくり時間をかけて。」
「でもどの道を選ぶかはSashi、君の選択だ。いままで通りだって全然構わないんだ。
さあ、どうしたいのか決断を聞かせてくれ。」
何も異論はなかった。それこそが、今の自分に必要な最後の1ピースだと知っていたからだ。
タブラを始めて10年で前へ進めなくなり、次の10年を目標に、すでに方向転換しリスタートしてきたけど、本当の核心の核心はまだリスタートできていないことが分かっていた。
*
「諦めるのは簡単だよ。
諦めることはいつだって出来る。
誰でも私だっていつだって諦められる。でもなぜ諦めることがある?
音楽を愛しているし、タブラを愛している。
音楽はすでに君の心の中にあるし、君の手の中にもある。
なのになぜ諦める必要がある?
必要なのは現実的なプロセスだけだ。現実的なトレーニングだけだ。
音楽を表現するために準備出来ている状態にしておくこと。
とてもシンプルなことだよ。」
Give it good timeチョーさんが帰国して1週間が経つ。
この間、練習や意識を根底から見直すプロセスの中にいる。
そして、確かに自分の手の中で感触が変わってきているのを実感している。
結果は当然まだ先だけど、この選択の先には、今抱える矛盾も解かれていく光が見える。
Give it good time...
チョーさんが繰り返し言っていた言葉だ。
この機会と出会いの巡り合わせに感謝しかないけれど、それも結果として証明し示していく外にはない。
またすごい人に出会った。チョーさん、遥かに想像以上の人だった。